”せいじ”が来た。
数年前、よく来ていた。
おふくろも連れてきた。
無口だが、必要なことは野太い声で語る。
顔を見れば、眼鏡の奥から知的な眼が見える。
普通の人だ。

普通でないのは、その食欲だ。
当店の定食のご飯は、食べ放題である。
羽釜炊きの今摺り米である。
”せいじ”は、こびる食堂を開いてから最高記録の7杯を食べた。
「昔、家で羽釜で炊いていた。懐かしい。美味しい」と言って…
それ以降、お替わりはするが7杯までは行かない。
というのも魔子様が、大量に食べる人には、丼でご飯を盛るようにしているからである
魔子様の目にかなった3人の常連客が、丼飯を食べる。

そんな”せいじ”が、久しぶりに顔を見せた。
初日は、昼前に入ってきて定食をたべ、お替わりせずに出ていった。
翌日は、朝7時半にやってきた。
魔子様が「8時からです」と言うと、食堂の受付の前で「たまご定食」と言って座った。
8時近くになって、魔子様が生卵の定食を差し出すときに「ごはん、お替わりできますよ」と声をかけた
”知っているはずなのに…“と思ったが
魔子様は“なんだか、知らないような素振りだ”と言う
”せいじ”は、丼で3杯お替わりをした。
どうやら生卵で1杯、つけもので1杯、味噌汁で1杯のようだ。
定食についている朝のコーヒーは、テラスで飲んだ。
それでも2時間ぐらいは、いただろうか…
そのうちに見えなくなった。何処かへ行ったのだろう
と思ったら、店の前のベンチに居ると言う
昼前に、また入ってきた。
店内をウロウロしてジュースを買い、テラスの日陰で飲んでいた。
昼に近くなると、こびる食堂の受付に来て

「たまご定食」と言う
慌てて魔子様が、ご飯を炊く。
”たぶん3杯食べるだろう。それには今のままで間に合うが、
後から来る客用に炊いて置かなければ…”
という読みだ

やはり丼で、3杯食べた、
生卵で1杯、つけもので1杯、味噌汁で1杯である。

一日に二回くる客は、いない。
しかし、その後は日陰のテラスでまた1時間、
店の玄関脇の日陰のベンチで2時間
夕方みたら、姿は見えなかった。

朝7時半頃から午後の3時過ぎまで、どうやら店のまわりにいたようである。
格好はジャージー姿だが、その上に着たチョッキのポケットが異常に膨らんでいる。
なんだか身の回りのものを詰め込んだような格好である。
年格好は、たぶん小生と一緒ぐらいだろう。
以前は知的な目も髭面にかこまれて、トローンとしていた。

近くの人が、
「この前も家の近くの塀に座っていたわよ」と言う

 

認知症が増えている。若年性認知症も増えている。
団塊の世代も、ほとんどリタイヤしている。
親の介護で離職した人たちが、職にあぶれている。
結婚してない単身世帯も増加していると言う
貧困率は16%と言うが、本当は20%を超えていると言う人もいる
”せいじ”のような人たちが、どんどん増えてくるのだろう