右足首を血だらけにして入った救急センターは空いていた。
看護婦が用意した車いすに乗って扉を開けると、大勢の医師や看護婦が寄ってきて

0-90口々に叫ぶ

「どこで怪我をしたのですが」
「なにかぶつけたの?」
「切ったのか?」
一方的に質問を浴びせられるが…
いちいち答えられない。
どうやら事件性や、業務災害の対応のようだ
しばらくしてようやく質問が出尽くすと…

答えた。
「かさぶたが、やぶれた」
「かさぶたは、なんで出来たの?」
「そんなこと知るか!」

車いすからベッドに移され、点滴を繋がれ、血圧計をまかれ
「ずいぶん細いズボンをはいているね
ズポンは切り裂かないと、ダメだね」と看護婦。
「えっ!脚は切っても、ズポンや切らないでくれ」
「なにか?ビンテージなの」
「いや!びんぼーで、一張羅なのだ」
「ケラケラケラ(笑)」0-89

足首にビニール袋をかぶせ、汚れないようにズボンを脱がせ、鍼医で巻いてくれた包帯をとった。

「わっ!すごい!まだまだ飛び出る」
またわっっと人が集まる
「そら新しいガーゼ!」と言いながら若い体格のいい看護婦が傷口を押さえる
「イタ!痛い!イタタ!」
ものすごい力だ。
傷口が抑えられるよりも、足首が折れそうだ
「ちょっと我慢して…」
長い時間抑えられたような気がするが…

またガーゼをはがすと
「あれ!駄目だ。ダラダラとにじみ出る」
そしてまた強烈に抑える
「イタ!痛い!イタタタ」
”もっと若い女の力の弱い看護婦はいないのか?”

それでもにじみ出る。救急センターに入って1時間は経過しただろうか
そのうちに何件か救急患者が入ってきたのだろう
静かに分散していった
若い医師が来た。
「何を呑んでいるの?」
「黒角を…」
「えっ?」
「昨日は水割りで…だからスコットランドに黒星で…」
「いや薬のことだよ、血液さらさらのワーファリンなんかは…」
「呑んでいません。薬はこちらからもらったものばかりです」
医師は、パソコンの画面を見て
「ワーファリンは呑んでいないけど、同じような薬を処方されているよ」
「通りで血が止まりにくと思った。髭剃りはいつも血だらけなんです」
「今日は止まらなかったら、焼くか縫うかして止めるから…」
「今回はひと針縫いましたので、近くの皮膚科で、二三日後抜糸してください」
「近くの皮膚科は行ったことがありません。病院はここだけです」
中央病院は、基幹病院であり、通常の通いの病院は近くの医院である
しかし、近くの医院は行ったことがない
中央病院の中でたらいまわしではないが、紹介状をもらってあちこちと回っているのである
今回は最後の牙城「皮膚科」に行くことになった
これで霊安室をのぞけば、全科制覇である。

 

迎えに来た魔子様と救急センターの扉を開けた途端。小生の顔を見て
「オバラ先生!オバラ先生!」と大きな金切声で叫ぶ女性が…
「いや、オバラではなくて入道ですが…」
「早く呼んでオバラ先生」
驚いて立ちすくむ魔子様。小生も気が動転
すぐ救急センターの扉を開け出ない声で叫ぶ

「オバラ先生」オバラ先生」

救急センターの医者と看護師が全員振り向く
「そらストレッチャー」と言いながら
女性のそばでうずくまって、泡を吹いている少年をストレッチャーに乗せて運ぶ。

まったく油断も隙もない。どこでサボっているのだオバラ先生は…