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退院の日の朝、看護婦がベッドの脇で言った。
「たぶんご家族がお迎えになるころ、この付近におりますから…」
「…」

退院のとき、家族が迎えに来て看護師に世話になった御礼をして帰るのが慣例らしい・
しかし、何回もの入院生活のなかで一度も家族が迎えに来てくれた試しがない。

大体が10時までに退院しろという。10時までは店の開店準備で大忙しだ。
だから独りで荷物をまとめ、独りで荷物を抱え、部屋にいた人だけに挨拶をし
忙しそうに立ち働いている看護婦を尻目にエレベーターで下に降りた
会計もいい加減であるから「次回払う」「カードで払う」「足りない分はあとで…」

そんな感じでタクシーを捕まえると、店の近くのタクシーだった。
「まっすぐ10分」「北山トンネルを抜けるのですか…」
「不景気のトンネルを抜けるのだ!」
「退院ですか… シャバも不景気でいいことなんかありません。
で?トンネルを抜けてからは…」
「オタクの近くだ。”野菜畑”をしらないか?」
「いや、こちらの営業所でなく。青山町のほうですから…」

と話しながら、あっという間に店についてしまった。
「あぁここね。以前、盛岡駅からお客を乗せて連れてきました。なんでも東京から来た人で、
この店の人がどんな考え方をしているのか調査に来たと言って…
あっ!荷物はこぶのを手伝いますよ」

いつの頃の話だろうか?
声をかけてくれれば、説明したのに…