インスタントのワンタンを食べようとお湯を注いだ瞬間、彼はやってきた。
こういう時が一番困る。
化学調味料を一切使わないお店の主人が、インスタント食品を食べているのは、様にならない
しかし一日中、少量づつ食べ続けないといけない食事法を採らないと、体力が持たないし、一気に食べるとダンピング症候群を引き起こす。
そこで客が途切れたときに、慌てて作って掻き込むのだが…
あるとき生産者に「良い物食べてるね〜」と見つかってしまった。
「いや、こんな物しか入らないですよ」と言いながら仕方なくカップを見せる

「おやワンタンだけで麺が入っていないのだね」

食道の細くなったところを、麺が縦に通ると思っている人が多いだろうが、噛みちぎられたちいさな麺が横に溜まることによってふさがるのである。
だから麺類を飲み込むのは、なかなか難しい
ワンタンなら溜まるが、そのなめらかな皮で、少量の液体で落ちていく。
ところが自家製のワンタンは、たっぷりと具を詰めるので、小さくかみ切らないと食べられない
インスタント食品のワンタンは、そのまま飲み込める大きさなのである

そこで何個か、ストックしておくのだが…
客が途切れた瞬間にお湯を注ぎ、できあがった頃、客がくる
結局、冷めて伸びきったワンタンを食べるハメになる

 

「どうした病院の帰りか?」と聞くと
「そうです」と生産者の彼は答えた
数年前に躁鬱で一時家に引きこもっていた彼は、ひと月に一回、盛岡の病院に通っている。
だいぶ良くなったようだし、昨年は店に花野菜の苗を供給してくれた。
「今、何してる}」
「バイトが年末で終わって、ハウスのビニールを取り替えています。ところでKが亡くなったのを知ってます?」
「Kが…、何で亡くなったの?」ちょっとイヤな予感がした。
「ムリに…」「ムリに…」
{えっ!なに?」
「無理矢理… 自殺だそうです」

Kと知り合ったのは、彼が35〜6だっただろうか幼い子どもが何人かいたはずだったが…
もう今は50を過ぎているはずだ。
畑作地帯の小規模農家の長男として生まれて、兼業農家として冬は運送会社に勤めていた
以前は、当店の生産者グループの事務局としてとりまとめをしてくれていたが…

  結局、グループの生産者全体が、同じ作物を同じ時期に収穫できるのでかち合うのだ
  これはどこの直売所でも、生産組合でもそういう問題が発生する。
  結果、情報を誰が先に入手して対応するかで、売上が決まっていく
  平等にはならない。
  有るグループでは、注文のFAXを受け入れるFAX機が置いてある家が、
  「もう注文分用意してあるから…」と言って他の人が出荷させない

そんな事が日常だったので気の優しい彼は事務局を止めた
そのあと地元のホップの生産組合に入ってホップを栽培していたはずだが…
それも止めて農業から撤退していた。
夫婦共に農業から撤退し勤めて居たはずなのに…自殺とは…
両親も亡くなり、だれも上から押さえつける人もいないのに…

会社の人間関係だろうか?
それとも経済問題だろうか?

黙って農業をやっていれば…
「農業は、苦しい、苦しい」と多くの農家は言う
しかし、動植物の生長をみるのは楽しい(農)
それを金に換えるのが大変なのだ(農業)

以前のように小さな農業なら、そんなんでもないが…
現在のように大規模になり機械代がかかり、油がかかるようになってから原価のかかる農業は大変になった。
それまでは身体が大変だっただけである。

そしてKのように小規模の田畑を受けついた長男は、相談相手も無く大変になっていったのだろう

あ〜あ合掌