ようやく長芋が出てきた。
田中清憲は

「今年の長芋は、余り良くない。小振りだし、肌が良くない。
うちの畑は粘土質だから…砂質のほうが形は良いのだが…
ただ粘土質の方が味は良い。1月にぐらいになると味が濃くなる」

と言って袋つめしていた

遠藤栄は肺がんで亡くなったので、義兄が畑をやっている
お袋さんは
「なかなか仕事が段取りよくいかなくて、まだ長芋にとっついていない」
と腰を曲げてすまなさそうに、言い訳をしていた

長芋は青森が産地だが、野菜農家が多い県北部の岩手町でも多く栽培している
こちらの長芋は、水分の多い粘りの少ない長芋である。

丸い”粘り芋”と言われる粘りの強い芋の栽培を依頼したが、大きいのが採れず、この地方では土質なのか、気候なのか、無理のようである。
栽培方法を、もっと研究すれば出来るのだろうが、一年に一作の長芋に、そんなバクチを農家に強制する訳にはいかない

子どものころから長芋は好きであった。
母親がすり下ろしたとろろを、ご飯の上にかけ、その上から味噌汁をかけるのである
それをズルズルとすする。何杯でも食べることが出来た。
腹一杯になるころには、味噌汁が無くなって、母親は、とろろだけをかけて食べていた
子供心に「全部、味噌汁をかけてしまって…」と申し訳ない気持ちでいたが
よく考えてみると、一番美味しい食べ方をしていたのだ!と、最近になって気がついた
しかし、高価な食べ物だった。

長芋農家に聞くと「昔から、ご飯にそのままかけて醤油をかけて食べた」という
長芋をすり下ろしたとろろに、味噌汁を入れるというのは増量だったのだろう
こちらの長芋は粘りが少ないので、わざわざ出汁を入れる必要は無いのである

ようやくお待ちかねの「とろろ定食」が、メニューにのぼった。
ご飯が二杯、お代わりできる量のとろろが付いて…