一本の電話がかかってきた。
「納豆用に、豆をいりませんか?」

普通の農家なら、訛りの強い言葉で聞き取りづらく一方的にしゃべるのだが…
標準語に近く、はっきりした受け答えの60前後の男の声である
話を聞いてみると
「二反歩ほど秘伝の豆を植えたが、素人なので二反歩の収量は上がらない。しかし、採れたら売るところが無い」
と言う。
ちょっと感じるところがあったので
「明後日、そちらの方面に行きますので、畑を見せてください」と言って電話を切った
場所は、片道1時間の沢内である

 

秘伝は、日本一の香り枝豆と言われる
その秘伝は、晩生である。9月20日頃から枝豆として出初め、11月に大豆として収穫する
紫波の阿部幸良は、
「花が咲くころ暑さで、さやだけ立派になって実が入らない。枝豆も1週間ほどずれる。昨年産のお宅の分として取っていた在庫も、やれない」
などと言ってきた
「400kgの契約だからなんとか…」と言っても「おらほの味噌も、種豆も取れない」などと言う
農家は”契約”という概念にとぼしい自由人である。
とはいえ、不安定な自然のものを契約という概念で縛ることができるのか?という問題もある
自然の恵みを営みが続くように、繋いでいくということも、考えなければ…
しかし、それで経営が成り立つのか?

今年、たまたま秘伝の種豆を、北上の八重樫真純に売ったので
「どうだ、できは?」
「だめだめ、さやに一粒しか入らないし。さやが大きくて実が…、肥料が半分で良かったかも知れない」
八重樫真純は大豆を15町分、転作田に栽培している。その彼が
「だいたい種が高すぎる」と文句を言う
「とりあえず出来た秘伝は、全量買うから…」
「じゃ〜今年は収穫した奴から種豆を取って残りを、全部やる!」
商談は成立したが、2反5畝であるから、それで100kg入手できるか?

 

 

今年の暑さのせいで「秘伝一家」の原材料の確保が難しくなってきた
そんなところへ、かかってきた一本の電話である
沢内の友人の家で場所を聞き尋ねていくと
新しい立派な家で、お婆さんが一人で豆をほぐしていた

やがて戻ってきた人は、こざっぱりした見かけは、勤め人であるが…
「実家が沢内で、北上に家があるのだが、お婆さん一人なので、土曜日の農業大学校を除いては沢内にいる」
という郵便局を定年退職し,農業を勉強をし直している人であった

広い畑に大豆を二種類植えてあり、中手の「鶴の毎」はもう葉を落としていた

これでは…そんなに採れない?せいぜい50〜60kgか…
「枝豆は?」と聞くと「あと10日ぐらいかなぁ〜」と葉っぱをかき分けて

沢内は、平野部と比べて1〜2度低いから…、と言っても霜も降りるのが早いので…」
なるほど、平野部と山間部を組み合わせて、原材料の確保をしなければ…

別れ際に彼は「お宅で納豆を買って、容器を取っておいたので…」と「たいこばん」を購入して大事に持っていたらしい